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ホームルームは五分ほどで終わり、真雪はさっきのことがなかったかのように森山先生と教室を出た。一応、ついて行こうか、と言ったけれど断られた。
僕は二人が出て行ってすぐに、携帯電話であるところへ電話を掛けた。真雪の二つ上の姉、美冬姉である。真雪を介して何度も会っているので、普通の友達といっても過言ではないほどに付き合いがある。しばらく呼び出しの音が聞こえて、数秒で、もしもし、という声が聞こえた。
「もしもし、湊です。こんな朝早くにすみません。今、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。どうしたの? あ、真雪が初日になんかやらかした?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど」
僕はホームルームの直前にあったことを話した。すると、美冬さんは、うん、そっか、とだけ言った。
「……真雪、本当に元通りなんでしょうか。なんか変、っていうか……ふざけてるとは思えなくて」
「そうねえ。おふざけではないね」
「じゃあやっぱり、何かあったんですか?」
美冬さんは、ううん、と何とも曖昧な声を出して、しばらく黙った。そして、実はね、と重々しい感じで一言ずつゆっくり言葉を発した。
「実はね、真雪、記憶障害があるらしいの」
「記憶障害?」
「そう。事故で頭を打ったせいで真雪の記憶がおかしくなっちゃったみたいなの」
「おかしくなったって……」
「具体的に言うと、なくなってる……の。毎日少しずつ記憶がなくなってるみたいなの。学校をお休みしてた一週間で、私のことも、学校も、お友達も、いろいろなことを着実に忘れてる」
美冬さんのことも……。なんだか実感の湧かない話だが、実際担任の先生のことを知らなかった。きっと本当に記憶が消えているのだろう。
「お医者さんはね、事故で記憶に一時的な障害が起こるのは珍しくないんだって言ってた。そういうときは大体すぐに治るものなんだって。でも、確実に治るとは言い切れないとも言っていた。お薬なんてないから、放っておくしかできないんだけど……」
「本人には?」
「言えるわけないじゃない。忘れてることを言ったって、意味がないもの。でも、とりあえずお母さんとお父さんと私は知ってる」
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