プロローグ~始まりの物語

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 それからもう一つ、参加者の個人情報の取扱い。1回目の研修に参加した時点で自宅や会社など、自分の身の回りの人にはモニター候補者であることが周知される、というもの。  “モニター”という名前の通り、国の客寄せパンダにされるのだ。  近親者にしか伝えられなくてもSNSがまん延する昨今、拡散されないわけがない。きっとあっという間に広まって見ず知らずの人にまで噂されるようになるだろう。静かな生活を望む人には耐えられないかもしれない。  ただより怖いものはない……やはり好待遇に見合うだけのリスクは存在する。  その代わり、半強制的に参加を余儀なくされる陪審員制度と違って無理だと思ったら辞退することも出来る。実際、説明会の帰り、八王子に辞めたいと申し出ている人を何人か見かけた。  ただ、一度辞退してそれが受理されるとその時点で権利がはく奪され二度とチャンスは巡って来ないらしい。  「ふうん、でもやるかやらないか決めるのって二か月後でいいんでしょ? ギリギリまで考えりゃいいのにね」  「その二か月の間、ずっと晒しものになるのが耐えられないからさっさと辞退するんでしょ」  「え、もしかして友里も辞めようと思ってんの?」  「ううん……まだ何も」  ―宝くじが当選したらこんな感じなのだろうか。     
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