プロローグ～始まりの物語

　現在は試験段階のため関東地方限定での実施となっているが、本格的に導入されたあとは全国規模となり、対象者は就職試験さながらの筆記・面接等の工程を経てその権利を得る。

　事前の広報活動が活発だったのが功を奏したのか、今やマイナンバーカードと張るくらい認知度は高い。だがその生態については未だ謎に包まれていた。

　「20代ってモニター対象外なんですよね。いいなあー芳美さんたち」

　恨めしそうな視線を向ける愛莉。と、すかさず芳美が突っ込みを入れる。

　「何言ってんの、まだ若いんだからこんなモニター必要ないでしょう？」
　「えー、だって対象になったらオプションとして習い事や勉強、資格を取るときなんかもその費用が全額免除されるんですよー。何でも思いのまま、自分磨き放題じゃないですか！　芳美さんやりたくないですか？」
　「私はいいかな、今の生活に不満もないし。金白さんはどうです？」
　「うん、私もあんまり……」

　確かに聞いている限りではいいことだらけのこの制度。実際、対象者に選ばれたいと望む者は多い。しかも20年前から始まっているだけに、いつ本格始動に移行してもおかしくない状況。

　そのため、試験なしで滑り込めるこのチャンスに自分も……と、皆色めき立っているのだ。