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それはどうだろうか。
おれがなにも答えないから、看護師からは愛想笑いも消えていた。
「こちらのお部屋になります」
ありがとうとだけ言って静かに引き戸を開けた。
春の風は花の香りがする。
患者が横たわるベッドの上にも舞い込んだ花びらが数枚。
2年も経てば外傷は治るか。顔だけはあのときのままだ。
おとなしい顔をしているのは薬で眠らされているから。眠りからさめるとおだやかな顔が恐怖でゆがみ、不自由な体で暴れだすという。
全滅したと思っていたよ。
いまでもあの日のことは忘れていない。
おれは最強の武器を携えて4日後に戻ってきた。出迎えてくれたのは誰でもなく、凍てついた瞳をむけるドラゴンだけ。
「だから言ったんだ、糞がっ」
だれもいない荒地でおれは毒づいた。だれもいなかったから汚い言葉使いができた。
おれは渾身の一発を奴の眉間に打ち込んだ。
そこを狙ったのはネッケが大切にしていた炎の聖剣が目印のように突き刺さっていたからだ。まるで、ここを狙えとばかりに。
おれはネッケのおかげでドラゴンを仕留めることができ、世界は救われ英雄になった。
「おれが正しい位置に立つことができたのは、それでもネッケのおかげなのか」
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