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おれの声が届いてしまったのか。患者が目をあけようとしている。
おれを見て暴れだすだろうか。そもそも、おれを覚えているだろうか。
夜が明けるように開くまぶた。
「おれがわかるか」
それでもおれは聞きたい。
「ヒローイン」
ネッケの最期を。
「……」
深い緑の瞳は、しばらく現実と夢の境をさまよい、現実をみようと色が戻ってきて。
「ネッケ、あなたなの」
大粒の涙を流しはじめた。
「眠り薬の影響か」
おそらく、彼女の頭は成分の強い薬で霧がかっている。あまりに暴れるから過剰投与していると看護師が言っていた。
「ネッケ、よかった。生きていたのね」
お前がついて来なければネッケは生きていたかもしれない。と口にだしてもよかったのだろう。この様子ではおれの声など届かないだろうから。
彼女の目に、少しの生気が戻っている。
「君だけでも生きていてよかったよ」
真面目男の常套句だ。本当にそう思って言ったのだろうか。
「珍しいですわ。同じ日に二人もお見舞いに来るなんて」
さっきの看護師の声だ。
カツッという音が背後でした。松葉杖をついているのか。
「ショージィ、おまえなのか?」
名前を呼ばれて、おれのほうは一生分の驚きを真空パックで届けられた気持ちがして息が詰まりそうになった。
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