言いたかった、言えなかった

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「優しいのね、(けい)は」 「普通だろ。…今日、帰り遅いの?」 「庸介(ようすけ)さんは一昨日から出張よ。今回は仙台って言ってたわね」 受話器のコードを指で弄りながら壁に掛けられたカレンダーに目をやる。 マス目の大半が地名と矢印で埋められていた。 寂寂たる2LDKの匣の中に、私と彼の言葉だけが漂う。 「本当忙しいんだな。土産沢山買ってきてもらえよ」 「なぁに?お裾分けでも期待してるの」 彼の言わんとしている事は分かる。 でも心配には及ばない。 物で埋める必要が無い位、心に隙間は空かないのだから。 「私の事より、圭だって朱莉(あかり)さんに寂しい思いさせてないの?」 「大丈夫だよ、最近は陶芸教室に通っててそっちが忙しいみたいだから。俺の方が放ったらかし」 何処も似たようなものねぇ。 漏れるのは恐らく正解の、笑い声。
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