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「大勢で一人をいじめるなんてダメ!」
一人ステージによじ登ったかと思うと、両手を広げ必死に俺を守ろうとする健気な少女。
俺が事故か何かで記憶をなくした元善人の悪党なら、彼女の涙で正気を取り戻すこと間違いなしだ。しかし、残念ながらブラッキーホールにそんな裏設定はない。
いや俺らの暮らすこの天川町のご当地ヒーローなのだから、この際そんな設定を乗せてしまうのも悪くはないか?
そんなことをぼんやりと考えていると、
「おい!ブラッキーホール!聞いてるのか!」
とレッドが声を張り上げた。
元太の奴、完全に調子に乗ってるな……。
ジロリとにらんでみても、マスクをかぶっているこちらの表情が彼に伝わることはない。
大げさに体を動かし、満足気に子どもたちの歓声を浴びるレッド……もとい元太は、俺のこのピンチを楽しんでいるようにすら見えた。
どうしろって言うんだ。
俺だってできることならこの子を即座に解放して、早くやられてしまいたい。
「お嬢ちゃん、お兄さんはいじめられてるわけじゃなくてね……」
小さな声で、目の前のその子に話しかけても彼女は聞こえているのかいないのか頑として、俺の前から動こうとしなかった。
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