優等生

4/17

257人が本棚に入れています
本棚に追加
/293ページ
「なんで、断るのさ」 上級生の一人が倉木の説教から解放された蓮に近づいて来て訊いた 「有名俳優のお忍び援助なんだろ? しかも若手だって言うじゃないか。俺だったら、文句無しで即決するけどなぁ、、、 いや、ジジイでも受けるなぁ」 ストレッチを始めながら羨ましそうに言う それは当たり前の事だった 「そもそも僕達男子を被扶養者(クリエンテラ)にしようって人自体、少ないんだからさ、そりゃ倉木先生だってうるさく言うよ。 そろそろ焦った方がいいぜ、お前も。 パテルだって選ぶなら若い子の方がいいに決まってるんだし」 その通りだ ここにいるレッスン生達は若いうちに一刻も早く自分を支援してくれる裕福なパテルを得るべく、フロアの上で争奪戦とも言える戦いを繰り広げているのだ 見学者がある度、いかに目立ってジャンプや回転を見せつけるかに皆、熱くなる それだけに蓮が今回に限らず、これまでにあった申し出を断り続けていることは周りの者には到底理解できない トゥシューズで踊る女性役のポワントではトップを誇る技術を持つ蓮への羨望は、無理解と共に悪意ある嫉妬に変わる 案の定、バーレッスンが終わる頃には 『蓮は、若手俳優ごときじゃ不満なんだって。 あんな汚いシューズのくせに』 などと、はっきり聞こえる大声で言われるのだ 蓮は、朝のレッスンが終わると朝食も摂らずに耳を塞いで寮棟に駈け戻り、ベッドに飛び込んだ ベッドの支柱に掛けた二足のトゥシューズはつま先がベコベコに潰れてすり減っているし、真っ黒に汚れてもいる 指に付けるトゥチューブもぺたんこ だから指の何本かはマメが潰れて、血が滲んでる レッスン用の布シューズには穴が開き、ストレッチパンツも洗濯のし過ぎでウエストのゴムが緩み、レッスン中何度か引っ張り上げないと落ちてくる レッスンをすればするほど、消耗品に追われる 相手を選ばず、申し出てくれたパテル候補と契約を交わせば、すぐにでも全てが揃うことはわかってる 「だけど、、、」 こみ上げる涙をシーツが吸った
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

257人が本棚に入れています
本棚に追加