優等生

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初めて面会をした時に、彼が見せた舐めるような視線が頭から離れない それは、これまで断り続けたパテル候補達と全く同じ目だ レッスンの様子をフロア二階から隠れるように眺めていたという有名なその若手俳優は、男性ダンサーではなく、ポワントと呼ばれる 『トゥシューズで踊る女性役のダンサー』 それでいて、 『女の子っぽくなく、少年らしさがある子』 という条件だけで 僕のパ(足の動き・振付)や、ジャンプなどろくに見もせず、直ぐに同じポワントで踊る美月(みつき)と共にラウンジのようにソファを配した応接室へと僕らを呼び出したのだ そして立ち並べた二人の身体をやたらと眺め回し、 「こっち」 と僕を指差し、美月を下がらせた それから続けざまにパテル側から契約時に出せる条件として、同居は勿論のこと、地方ロケの際の同行、身に付ける私服は全て自分の好みに従う事などをその場でつらつらと提示した 倉木先生は 「クリエンテラは愛人でも、着せ替え人形でもありません。ハラスメントが認められた場合、、、」 と、念を押して事前に注意はしてくれた。 けれど、五条という俳優は、 『僕には常にマネージャーが付いているし、付き人も一緒に生活してるからそんな心配はない。』と、真面目に応えたものの その帰り際にはもう、 「君のミニドレス姿、早く見たいね」 『少年らしさのある子』などと注文をつけておきながら、そんな事を言って薄く笑い、そっと蓮の腰を触ったのだ 長年に渡り、コーディネイトをしている倉木先生も、バレエへの興味も見せない彼がパテルとなる目的を怪しまない訳ではなかったのだろうが、一度でも違約があれば契約は直ぐさま解除できる為、 「とにかく、一度は契約を」 と蓮に推してくる 確かに、厳格な身元調査もあり、舞踊普及への熱心な貢献として、誠意あるパテルが多くを占めるのは間違いない それでも、プロのバレエダンサーを育成するという目的をパテルの性的嗜好と混同され、愛人のように扱われるレッスン生を蓮は何人か見てきた もちろん、クリエンテラから申告があれば契約違反として直ぐに契約の解除をされるが、パテル獲得に疲れたレッスン生の中には、そのまま愛人に甘んじ、生活とデビューまでの金銭保証を選ぶ者もいる
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