現実

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「そうだ。ここは病院じゃない。」 それは心の余裕がなくなり始めた俊哉にかけられた渋い声であった。無機質な声ではなく生の人の声であった。 俊哉が振り返るとそこには無精髭を生やした中年男性がいた。彼は明らかに日本人ではなく、ヨーロッパ系の男性だった。 そう思う俊哉にもヨーロッパの血は流れているのだが、自分とは異なり金髪で青い目をした彼の姿は純粋な外国人のようだった。 「まずベッドを起こさせてもらうよ。」 すると男は空を切るように手を動かし、それに連動するようにベッドが起き上がった。 「あまり見ない事故だったから監視対象にしてたんだが・・・、まさか記憶障害まで起きてるとはな・・・」 「すみません、よく分からないんですが、自分は交通事故に遭ったんじゃないんですか?」 俊哉には、男の発言の意味は全く分からなかったのだが、何か自分の身に起きた事を知っているだろうと感じた。 「うーむ・・・、そうだね。特にここは忙しいわけでもないし、ゆっくりと適切な説明をしてあげよう。だがこっちも仕事中だし、話す情報量はかなり多いから数回に分けて話に来るよ。それでいいかな?」 「ありがとうございます。」 すんなりと話が進むことから、俊哉のこの施設や男性のことを怪しむ気持ちは薄れていた。 「よし。まず私なんだが君の担当を任せられたローガンだ。呼び方はなんでもいい。君が早く外に行けるよう最善を尽くそう。」 「はい。ローガンさん。」 差し伸べられた手を俊哉は強く握った。
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