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「まず発声のリハビリをしないといけないね。俊哉の発声障害は軽度だからすぐに元通りになるだろう。」
驚くべきことに、その言葉を発したのはあのロボットらしきものであった。まさか何か命令などをせずとも、自分が声を出せない状況を察知してくれるほど技術が進化しているとは到底思っていなかった。
「まずは、あいうえお、いうえおあ、うえおあい・・・」
そのままロボットによるリハビリが始まった。すぐに俊哉は違和感が残りながらも、しっかりと話せるようになり、小さな喜びを感じていた。
さらに俊哉はAIの技術の進歩に興奮を抑えられなかった。
部屋の明るさもだんだんと明るくなり、いざそのAIを見てみると、ベッドの横にある机にポカンと球体の置物があり、恐らくそれが本体であろうと察することができた。
話せるようになった俊哉はAIに向かって簡単な質問から始めた。
「今日は何月何日?」
「8月26日だ。」
「約3ヶ月か・・・」
最初の方にAIが長いこと寝ていた事を教えてくれたことや発声障害が起きていたことから、ショックや驚きは軽減されていた。
次に興味本位から事故のことを聞くことにした。
「入院した当初、俺はどんな様態だった?」
どれだけ酷かったとしても俊哉は受け止める覚悟が出来ていた。
「心身ともに異常はなかった。」
その変わらぬ無機質な声は俊哉を再び困惑の渦に引き戻した。
「は?ありえない、そんなことが有り得るはずがない。」
俊哉は確かにあの時、腹部への激痛と底知れぬ不安を感じていた。今思えば、痛みよりも死を受け入れようとしていたくらいだ。
「まず第一に異常がない俺は、なぜ病院にいるんだよ!」
俊哉は根本的な質問をした。
「ここは病院じゃないよ。」
その発言に、もう俊哉には自身が置かれている状況を整理するだけの心の余裕がなくなり始めていた。
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