1人が本棚に入れています
本棚に追加
ボクは、夜遅くまで遊んでいるダメな小学生じゃなくて、義務を果たす立派な飼い主だぞ、そういう気持ちでボクは散歩を続けた。
でもちょっとドキドキしたし、ワクワクもしていた。
そんなボクのご近所探検家気分は、遠くから歩いてくる影に吹き散らされた。
同じ歩道の先から、大人が三頭の大型犬を連れて歩いてきた。
黄土色のトレンチコートに、帽子を目深にかぶっている。
関東の夏の夜には、ふさわしくないファッションだった。夏は暑い。だったら、ポロシャツにズボンじゃなかろうか。
レインコートのかわりかな……違うよな。
シロクが身構えているのがわかった。いきなり反転して逃げると、余計に吠えられそうだ。すれ違うだけなら、大丈夫だろう。あいさつは……しなくてもいいかな?
ボクはクールを決め込んで、ゆっくりと歩いた。犬同士の距離は7メートルほどの距離になった。
「ガルッ! ギャウッ!! 」
突然、大型犬がシロクに噛みつこうとした。
シロクも負けじと吠える。ボクは目を見開いた。大型犬の飼い主の姿は、まだドリンク瓶ほどだ。
犬が放たれたのだ、ボクはそう思った。大型犬の一匹がシロクの首筋を狙っていた。
あわてて、シロクのリード紐を引いた。
「こいっ! 」
すると、黒い犬たちはボクにも襲い掛かってきた。
「うわわああ! 」
夜目にも犬の白い牙が見えた気がした。
ボクは一生懸命、家の方に走った。
ふりかえると、ボクはリードを握っておらず、シロクはいなかった。トレンチコートの男も、三頭の犬もいなくて、濃い灰色の空と湿ったアスファルトだけが、街灯に照らされていた。
「シロク!? シロク!? 」
ボクは愛犬の名を叫びながら、近くの道路を探し回った。きっとシロクにはこの声が聞こえるはずだ……。
「鈴原さん!? どうしたの?」
ボクは聞き覚えのある声に振り返った。
近所のお姉さんが驚いた顔で自転車で走り寄ってきていた。かごには駅前のスーパーの袋が入っていた。
「えっと、ボクの犬が、三頭の犬に……男の人が大きな黒い犬を連れていて。それがボクの犬を襲った」
ボクは落ち着いて説明しようとした。でもダメだった。
「……ボクのシロクがいなくなった」
泣き出したボクを、お姉さんはボクの家まで連れて帰ってくれた。
最初のコメントを投稿しよう!