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「だから身長が伸びなかったのよねえ、ちゃんと食べさせてはいたけれど、栄養になんて成りはしなかったんだわ」
放課後、既に寂れ入居者も居ない老人ホーム。その庭の片隅で幻視した。
かつて訪れていた人に、入居していた人達を。
朗らかな笑顔に向けられ、返される、同じだけ朗らかな笑顔。
屈託のない表情は、誰もが誰かに贈る事が出来る最高のプレゼントに成り得るもの。
けれど翼は、そこにどうしても不自然さを感じてしまっていた。
遠慮を、心の読み合いを。
隣に座った女性が語る過去の様に。
きっと二人は、親子でありながら親子を演じる事でしか繋がっていられなくて、何時も何処かで互いの心を読み合っていたのだろう。
そうやってぎこちなく家族を演じていた。そう在るべきだと。
家族の間には、必ず無償の愛があるのだと人は幻想を抱くから。
しかし翼は、自分の心が欠けていると思うからか、語る女性の悩みが分かると感じた。
親子であっても相性が悪くて愛情を持てない気持ちが。
平均的、または大多数から外れている人の虚しさ、苦しみが。
特別な誰かを愛せないだけで、ちゃんと愛する気持ちは分かっている筈なのに。
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