ピュグマリオン

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(誰かを愛する事は無償の行為だけれど、その衝動を特定の一人に向けて持てない人間だっているのだから、それが信じられないと、おかしいと声高に叫ばないで。一度きりの人生の中、僕は、ほんの少し違う心の形を持って生まれて来た。それだけ、なのだから) おかしいと言われる度に、勘違いしているんだよと言われる度に、まだ心がそこまで育ってないんだよと言われる度に悩んで来た。自分は未熟なのかと惨めになっていた。 (僕はこのままでは駄目なのですか。……欠けていては駄目なのですか。特別を作り、皆と同じにしなくてはならないのですか。伴侶となる人は、必ず見付けなければならないのですか) 思っても口には出来なかった言葉を心の中に繰り返し、今ではそれも無意味かと自身に問う。 欠けたままで終わるであろう、自分と言う存在に。 (ねえ、同じ人間のなかから誰かを特別に愛せない僕は不幸でしたか。この、何処か欠けた心こそが僕が生まれ持った心なのに) 声を出せないシンソウ・カノジョと同じ様に、翼は自身が奏でる音の全てを隠し、表情と仕草で表す。虚構の、物語の中でさえ繰り返される悲恋を、まばらな観客に向け。 最早見る人も少なく、咎める人も諌める人も居ない世界で紡ぐ不変の愛の物語。 ただ純粋に求めた、一つの理想であるシンソウ・カノジョと一緒に。 最後まで共に在りたいと願うからこそ。 遥か天空に広がる、紛い物の雪の結晶を仰ぎ見ながら。
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