ピュグマリオン

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予定調和。……崩れてしまえば不協和音を奏で、滑稽さと無様さを晒す融通の利かない機械。 食べる事も、眠る事も不必要で。 補助ツールが無ければ、触れている感覚すら補えなくて、目の前に幻としてしか存在しない。 向こう側を透過しない姿は、理想そのままで生き生きとしているのに。 理想で満たされた虚構の存在であり、けして満たされない現実の中の鮮やかな嘘。 それがシンソウ・カノジョだと嘲られた。 でも翼は、その儚い美しさに魅了させられた。 ほんの一時(ひととき)、流行った時期に撮られた動画を見て。 綺麗だった。神秘的だった。一緒にダンスする人もとても楽しげで屈託なく、映像の中で虚構のカノジョは魔法の様に衣装を変え空に浮かんで踊って、天使にも妖精にも見えた。 踏みつける草花も、触れた現実の何もかもを唯の一つも傷付けないシンソウ・カノジョは。 当然、翼は彼女が欲しいと願った。時代遅れのそれは最早手に入らないと分かっていたが、奇跡の様に開発者である女性と知り合い残されていた機械を渡されたのだ。 これは既に心残りではないから、必要ないから、貴女にと。 今はもう、人は人だけで経済を回せず、人工知能を搭載した多くのロボットやアンドロイド、ガイノイドに支えられ生き永らえている。シンギュラリティが起こっていなければ、人類はもっと早くに衰退し滅びていただろう。この世界は虚構に支えられているのだから。
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