ピュグマリオン

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機械には疎そうな顔をしていたその年嵩の女性は、老人ホームの閉鎖後にひっそりと生涯を閉じていた。自立性を持つ機械が、残された人々の為にと用意した薬を服用し。 例年より早く色付いた銀杏が全ての葉を落とした頃に。 たった独りでシンソウ・カノジョを作り上げた開発者の死はニュースにもならなかった。 一度は世間に名を知られた人だと言うのに。 家族を得た筈なのに、上手く家庭を築けなくて孤独に取り残された人だったのだろうか。 あの女性の娘夫婦も、早い時期に共に永久の眠りに就く選択をしたと聞いた。 「でもね、これの初期設定の身長と声は娘に似せたんだ。私にとっての理想ってどんななのか考えて辿り着いた答えがそれだった」 どれ程考え抜いたあげくの答えだったのだろう。どんな風に考えたのだろう。言葉の中に語られる事実だけじゃその人の全ては分からない。 自分で考え抜き、決めた一連の動作をなぞる翼の四肢。 軽やかに降り積もった雪の上に、足跡一つ残さないシンソウ・カノジョもプログラムのままに決められた行動を繰り返す。 優しく愛しい仕草で、翼と向かい合わせの鏡像(シンメトリー)を描き。 静かに、そっと息を吐く。 吐息でシンソウ・カノジョの映像が乱れる事は、けして無いのだけれど。
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