ピュグマリオン

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大切に扱いたい。彼女と言う存在は最早手に入らないから。 彼女を手に入れられたのは奇跡に近いから。 親子の関係を赤裸々に語った女性が、理想を重ね合わせた存在。そこへ翼は自分の理想をも重ねた。 何時しか最後の演技を終え、ティアの手を取り疎らな観客に向けてお辞儀を返す。 そこまでが一連のプログラム通りの流れ。 微笑みと密やかな拍手が送られ、三々五々と人々は去って行く。見送る背には人を支えるアンドロイドやガイノイドの姿もある。 帰って行く背を眺めながら翼は疑問に思う。今日に限り、遠く置いて来た世界を思い出したのは何故なのだろう。もう残り少ない時を、好きな様に生きると決めて悩みすら置き去りにして来たつもりだったのにと。 そしてもう一つ思う。今、この時に生きている人は滅びへの恐怖心のない人なのだろうか。それとも自らの生に幕を降ろす事に恐怖を覚える人なのだろうか。 白い雪の欠片が舞う中、人々と寄り添う機械を見て空を見上げる。 紛い物の白銀の花が咲き誇る天空を。 美しい死の先触れを。 細く歌声が響いて来たのはその時だった。
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