バウキス・ピレモン

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「じゃあ」 軽く手を振り、翼はセイレーンに背を向けた。 続く言葉に『また今度』や『さよなら』は告げない。 世界が終ると算出された日はもう間近なだけに、必要以上に言葉を飾り未来への希望を持たせる気はさらさらないのだ。 同時に、決定的な別れの言葉も避けているのだが。 次はもうないと人々は意識している。 「どこに泊まるのかしら? そこに行くまで私も一緒に歩いても良いかしら」 何を計算し弾き出したのか、セイレーンが紡ぐ言葉に翼は立ち止まり思案顔になった。 連れて行っても良いのだろうかと僅かに思い、それからあの人達ならば不意の客人にも不満は漏らさないだろうと考え直す。 むしろ、きっと喜ぶに違いない。 「自由だね、本当に」 「自立性の高さは、私、昔からお墨付きなのよ」 人間らしい気取った言い回しと芝居めいた仕草。今まで足取りを人に辿らせる事なく、自由に世界を歩き渡って来た事実はその台詞の証明となるだろう。
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