バウキス・ピレモン

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「だからもし分かったら、そっと教えて。ちゃんと名前を呼んで、ありがとうって伝えたいから」 機械であり、ネットワーク上から瞬時に情報を引き出せる相手にだからこそ願える望み。 そんなものは一言尋ねてしまえば良いのに、翼にその考えはなくて。 ただ、もう終わる世界で醜さを残したくないと心の底に思っているだけ。 自分の名を知られ、余計な気を回して欲しくないと。 セイレーンならばネットワークの中に網羅される情報から簡単に知り得るし、自立性の高さからどんな瞬時に人知れず教えるのが良いのか判断できると信頼して願う。 今まで自分達を支えてくれた機械、あらゆるロボットやアンドロイド、ガイノイドがそうであった様に裏切りはないと信じて。 だから不思議そうな、それこそ人間らしい問い掛けに戸惑った。 「どうして自分から聞かないの」 面食らっていると、微笑みを浮かべ言葉を繋げる。 「ふふ。構わないわ、教えてあげる。不必要と思う事に時間は掛けたくないものね」 その言葉に、翼はほっとした。 「ありがとう」 声には安堵がうかがえ、希薄になって行く他人との関係を悲しんでいないとも読み取れる。
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