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「……不思議ね、人は」
人間の中にある複雑な感情に向けて零された言葉は小さく、翼には届かない。
膨大なデータを瞬時に使いこなし、自ら考えて行動に移せる自立性を持ちながらも、セイレーンは人とは仕組みが違うからか回りくどさのある人の行動に矛盾を読み取る。
MI。軍事情報ではなく、マシーナリー・インテリジェンスと呼び習わされる彼女は機械に作られた機械。
人が関与していないからこそ、無駄を省かれ洗練し尽くされた機能は人らしくもあり機械らしくもある。だからこそ翼の気持ちを読み取り、機械は裏切らないと思う心を尊重し、また終わりの近い世界で余計な物事に他人を引き込みたくないと願う気持ちにも応じた。
間違いなく青野翼は、明日になれば老夫婦の元を去る算段でいる。
好きに生き様とする傾向は、この時代に強く見られるもの。
若者には特に顕著で、思春期を迎えた者位からが記憶の積み重ねに意味を感じないからか放浪の生活に入り易い。
シンギュラリティ以後、性能も凡庸性の高い機能も獲得した機械は人の生活を支えて来た。
有能な機械が存在するからこそ、人は容易く望みのままに生きて死に行く。
そして自らが自由だからこそ、他者の自由を侵害する無礼を嫌い、より一層個々で生きて行く生活を選ぶ。
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