44人が本棚に入れています
本棚に追加
気付けば何時の間にか、空から舞い落ちていた雪の欠片は止んでいた。
地上の明かりを反射しているのか、見上げた夜空に白く浮かんだ雲が流れて行く。
上空の風の流れは強いらしく、仄白く輝く雲の動きは速い。
「誰かと触れ合う事を苦痛に思わないばかりか、見返りのない奉仕に使えるなんて不思議な人達だよ。でもね、押し付けがましくないから居心地が良いんだ」
「そう」
二つの名前と、双子みたいなロボット。そしてホテルのワードで、この時にはもうセイレーンには老夫婦の名前が判明していた。
廣瀬緑。その夫、赤燈。
公園を出た所で街灯から一つの灯りが外れ、歩く二人の頭上まで飛んでくる。
小型のドローンには、青味を帯びた有機LEDライトが搭載され、道行く人の足元を照らす役目を担っていた。
人の少なくなった世界、明かりの灯らぬ家は多い。
不必要と判断され撤去された跡地には四季折々の花が咲き乱れるとは言え、今は葉を落とした木々の枝を含め雪だけが降り積もっている。
喧騒を忘れた夜に、かすかに雪を踏む音だけが響く。
「空さえも、息を潜めているみたいだね」
最初のコメントを投稿しよう!