バウキス・ピレモン

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「雪降る夜って、こんなものじゃないのかしら」 歩みを止め、耳を澄ませば、静寂の音が聞こえる夜。 羽虫の羽ばたきに似たドローンのプロペラ音が、今は控え目な唸りを上げて空中にある。 青みを帯びた光は犯罪傾向を減らすと聞いたけれど、翼にはその色は幽玄の世界を演出して人々に終わりを無意識にでも意識し刷り込ませる手助けもしているのではと思わせた。 犯罪数は確かに減っているし、機械は人をコントロールもしているだろう。ただしそれはかなり控え目だと思う。むしろ人に寄り添い穏やかに満足できる日々の提供を心掛けている。 自己犠牲の精神と奉仕の精神は似て非なるものなのだろうか。 かつて放送されていたヒーローアニメ。その主人公達の危険や損を顧みない問題の解決法、戦い方に今、自分達を支える機械達の姿が何故か重なる。 人は、きっと我儘だ。 生き物だからこそ、生きる為に何処までも。 清貧を求めるのも、誰かに仕えるのも、全部自己満足の為。 そんな気すらし、少ない星の瞬く空を見上げた。 空へ向かい、吐いた呼気が白く姿を晒して昇って消失して行く。 暴かれさえしなければ、偽善も嘘だと意識されないのと同じだろうかとも考える。 僕等は緩やかにコントロールされているのだろうと。
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