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隣を歩くセイレーンは精巧なガイノイドだけに、犯罪者が機械と気付いていなければ一番の獲物と標的を定められるだろう。
否、機械と気付いてもなお好きにしてしまいたいと考えるかも知れない。それ程に人を魅了するデザイン。
完璧さを求められ、作り出された姿。
人の中の獣性は、こんな最後の時になっても抑え切れないのだから。
せめてただ純粋に、セイレーンに熱狂する人であれば良いと願う。けれど人を恍惚の内に集団での死に追いやっていたのは、翼の知る限り二年ほど前までだ。
むしろ憎しみを募らせ、彼女を執拗に追い続けた人であると理解した方が正しいだろう。大切な存在を、一方的に奪われた憐れな人だと。
隣を歩くセイレーンに変化はない。穏やかな雰囲気を纏い、変わらぬ歩調で、後方の足音には素知らぬ振りして。
翼はその横顔に思い出す。未だ小学生、卒業も間近の頃、セイレーン最後の巨大ライブに行った事を。
母に手を引かれていた筈が、ライブの開催前から一種異様な雰囲気に呑み込まれている会場内に入ってから、もの珍しさに気を取られいる間にはぐれていた。それでも事前に渡されていたチケットのナンバーから、自分に割り振られた席を探し翼はそこに着く事が出来た。
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