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目の前でセイレーンが庇ってくれる様に立ちはだかってくれているが、翼は明らかな悪意を向ける相手に自らの中からも憎悪の衝動が突き上げて来るのを感じていた。
何故、セイレーンを憎む必要があるのか。君は自分が大切だと思った人に、同じ様に大切だと思われていなかった事実を受け入れるべきだと。
僕が母に大切に思われていなかった様に。
君のやっている行動は逆恨みに過ぎない。セイレーンは自ら死ぬ事さえできない臆病者に、幸せな終わりをプレゼントしてくれたのだから。
恐怖に狂いそうになると、毎晩零していた人が本当に狂ってしまう前に。
「……ウラヌスへの通信は出来ない」
怒りからか、緊張からか、それとも単純に寒さからか。歯を鳴らす音の合間に男は低く呟き、後は唇を硬く引き結んで黙り込む。歯が鳴り続けているのは滑稽だったが、お前達の弁明など聞かないと露にする態度はふてぶてしく、決心に満ちた眼光は鋭かった。
「通信妨害されていたわね」
余裕のある声と、過去形である言葉に男の呼吸が止まる。
開き掛けた口が動くよりも先に、セイレーンが諭す様に告げる。
「九二基の、ウラヌス衛星全てに人工知能は搭載されているのよ。不審な電波の発信があれば、当然取り除くわ」
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