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敢えてセイレーンを機械と告げながら、きっぱりと翼は答えた。
「僕達は、常に虚構の中に生きている。だからこそ、自分の虚構を誰かに押し付けてしまう危険性を思わなきゃならない」
「何だよ、それはっ」
「思い遣る事を止めた時、僕達は本当に虚構の中にしか生きられないんだ。自分勝手な現実の中にしかね。現実を見ない君は、恋人の心の中を一度でも考えたの」
「煩いっ。女の癖に僕だなんて気色悪い奴だな。貴様は誰かを心底想った事が無いから、そんな冷たく酷い言葉を言えるんだろっ。誰だって大事なものは自分の手の中に納めたい筈だ」
そうかも知れない。けれど、そうではないと翼は思う。
でも、伝えるには言葉では足りなくて。
自分の知る言葉だけで静かに紡ぐ。
「そうだよ、僕は冷たいんだよ。同じ種である人を愛せないんだ。きっと本能の部分からその衝動は抜け落ちている。命を賭して次の世代を産む勇気も無ければ愛情も注げない。その部分は欠けたデザインで生み出されたんだから」
「はあっ?」
真っ直ぐに男の目を見、機械的に抑揚も少なく声を響かせ。
「君の行動は、君自身に取っては正しいだろう。けれど、僕からしたら間違っている」
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