バウキス・ピレモン

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(これだから人は争うんだ。どこまでも平行線になってしまう想いを抱えるから) 繋ぐ言葉を考えながら、まるで別の考えも浮かんでくる。 言い負かせるとは思ってもいない。そんな考えは端からない。 まして分かり合う事も出来ない考えを持つ人。 自分の想いだけを口にし、恋人の想いを語れない人なのだから。 「君は恋人を幸せにしようと頑張ったかも知れない。けれどその行動は依存でしかなく、恋人を縛り付ける行為じゃなかったの」 「ふざけるな、青臭い餓鬼がっ」 「君は自分の不安を解消する為に、その人を支配していたんじゃないの」 翼は自分の考えを、相手とは平行線にしかならない想いを語る。 語らなければ、意味すら生じないから。 滅びの日が算出された後、犯罪が横行した中での男性の一方的な女性への暴力の話を知っている。目の当たりにした事もある。男性だけじゃない。相手を大切だとしながら、言葉で、力で、自分より弱い者を傷付けた話も。 気付いて欲しかった。自分の弱さに、恋人の弱さに。 (僕の母も、結局最後はすがる対象を見付けて、この滅びの近い世界に僕を置き去りにした) でもそれは本当に、ただ置き去りにしたのだろうか。
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