バウキス・ピレモン

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見れば男の手首近くが関節もないのに有り得ない方向へ曲がり、皮膚を突き破り白いものが飛び出している。 自身を破壊する程の力で暴れたのだ。だが、骨、と理解する前に空を裂く音が響く。 鋭い銃声。 立て続けに響いたそれは男の脇腹に穴を穿ち、セイレーンの背に、肩に、頭部にと次々被弾して行く。 「翼っ」 名前を呼ばれた事には驚かなかった。人よりも全能な彼女は、とっくに知り得ていた情報だろうから。 それよりも彼女が攻撃され、美しい姿が破壊されて行く様が衝撃で。 思わず手を伸ばし、膝関節を砕かれ倒れる彼女に駆け寄った。 白い雪の上に散らばる部品の数々、剥き出しの配線に砕かれた顔の半面。スパークする電流の紫色した火花。 傍らに膝を着き、壊された顔の左半面に震える手を寄せる。 「……翼、自分で御礼を告げて。廣瀬緑さんと赤燈さんに。できるわよね」 優しい口調に懐かしさが込み上げた。 二年前、ライブ会場でも同じ口調で告げられていたから。
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