カストルとポルックス

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『滅びの雪花』 『青女の溜息』 『空間結晶』 呼び方は色々と付けられたけれど、誰もがそれを破滅の先触れと知りながら美しいと感じてもいた。 『永劫の雪の夜』とも呼ばれる夜空に世界が包まれ始めてから、生活は特に大きく変わったとも思えない。 様相を変えた夜空に、井上紫苑は思う。 私達は、琥珀の中に閉じ込められた昆虫みたいに成るのだろうかと。 今も見えている巨大な雪の結晶に似た宇宙の一角を占める構造。 常識の通用しない空間。エネルギー値の低い、いわば水が氷に変化した様相の違う場所。もうあそこには、この世界の物理法則は無いのだとお偉い学者の講釈も聞いた。 花弁にも見える構造は繰り返しの形を持つ。雪の結晶みたいだとかしか表現出来ないし、これ以上に言い表すのに相応しい言葉を見付けられない。日々。空を占拠し成長して行くそれ。 フラクタルな構造を持つそれは、幾何学的な美しさを見せ付けるけれど、死を運ぶものである事には変わりはなくて。
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