カストルとポルックス

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それが何時出現したのかはしっかりと記録に残ってもいるし、いわゆるXデーも観測と計算に因って弾き出されている。 (人が滅ぶ……ううん。この宇宙が変わってしまう日) 空の向こうを覗き見ながら、紫苑は終わりまでのカウントダウンを思う。 自動運転の車内は空調が効いて心地好い温度となっている。 それでもウィンドウガラスを一枚を隔てて忍び込んでくる外気温は冷たく、知らず知らずの内に小さく身を震わせて。 『真空崩壊』 全世界に向けその報道が成された日より、絶望から自殺と犯罪に走る人が爆発的に発生した。 知るまではロマンチックだとすら思われていた整然とした六片の花弁の如き構造。 刻々と成長し、数を増やして行くそれ。 比例するかの如く、今も自殺者と犯罪者が緩やかに増えている傾向は残っている。 けれど、人とは不思議なもので。 Xデーの到来までまだ期間があるからと何時しか日常へと戻る人が増え、穏やかさを求めて安らかな日々を心掛ける様になった。 ホモ・サピエンスが地上に蔓延ってから、今が一番良い時代なのかも知れない。 生への欲求は必要な分だけで良いのだと誰もが考え、富の片寄りは解消されたのだから。
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