カストルとポルックス

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労働への報酬は、金銭よりも心からの感謝こそが喜ばれる様になり、人々の表情には笑顔が増えた。使い切れないほどの富みを得る事に、虚しさを覚えたのかも知れない。 パラダイスなのだろうか。 永久(とこしえ)ではなく、もうすぐ束の間の幻に終わるのだけれど。 『永劫の雪の夜』の名は皮肉なのだろうか。 問題として周期的に人口の減少は話題に上る。 確かに人は減った。 猶予が有るとは言え、子孫を残す事に必要さを感じない人が増えたからだろう。 かと言って恋や愛に消極的になる人達ばかりになったのでもなく、むしろ穏やかさを求められるからこそ烈火の如き鮮烈な恋愛よりもゆっくりと育む恋愛を好む人が増えただけ。 だから、人口の減少は問題になっているが一定の減り具合に留まっている。 恋愛に時間を掛ける様に、人々は生活の端々からせかせかした行為を削ぎ落としても行った。 残り時間を慈しみ、全ての行為に丁寧さと心遣いを織り込み。 丁度、シンギュラリティの到来もあって、自己の意識を確立したAIからの協力も有ったからだろうか。人はゆっくりと衰退しながら、最も繁栄した文化の中に暮らしている。 AIは人を危険とは見なさなかったのだ。 人工知能が作り出した、人の関与しないマシーナリー・インテリジェンスと呼ばれる存在も。
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