カストルとポルックス

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観測で結果の変わる二重スリットの問題。シュレディンガーの猫で表現される、生きても死んでもいないあやふやな事象。 聞いても余計にこんがらがるだけの説明。 理解出来たのは、水蒸気と水、そして氷がまるで違った性質を持つ様に、真空崩壊を起こした空間は今までの宇宙の法則とは全く違った法則に支配されていると言う点。 表面、境界面に起こるエネルギー差が光を放出し、光り輝くそれを見る事が出来るのだけれど、あの夜空に輝く擬似的な雪の結晶内部に何が起こっているのか人には観測出来ない。 一つだけ、自分を馬鹿だと評する紫苑でも判るのは整然とした美しさ。 遠い宇宙空間で最初に起こった崩壊は、地球からは遠い宇宙の彼方の出来事で理論上ほぼ光速で遠ざかっているから、いかに光の速さで広がっていても地球に到達するまでの時間が有ると言う。でも、それだけに性質が悪いのかも知れない。 死の先触れを、まざまざと見せ付けられながら人は生きているのだから。 瞬時に氷の中に閉じ込められる様に凍てついてしまえたのなら、苦しみも不安も少ないと思うから。 もしかしたら、あの空間に飲み込まれてしまった未知の生命も居たかも知れない。 系外惑星の探査はとうに打ち切られ、他の生命体が居ると知る事はもう叶わないのだけれど。 人は、穏やかな最後の時を過ごしていると紫苑は思う。
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