カストルとポルックス

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次いで思い出すのは、先程見て来た少女達。 一人は確かに生きた人だけれど、もう一人は機械の中に構成された偽りの存在。 静寂の中に溶け込んで何よりも美しく、誰よりも自由だと言わんばかりに見えたダンス。 恋をモチーフに、けれどそれ以上に孤独に足掻き、私達は確かにここにいると主張している様にも見えた静かで力強い命の躍動。 踊る二人の片割れは、幻の如きホログラフィックの存在だけれど、確かに命が息づいていたと思う。ガラスに映る自分の姿、その先の白と黒ばかりの無彩色な風景を透かして彼女達を思い浮かべた。 と、流れる風景が緩慢になり自動運転の車が止まる気配に、紫苑は形ばかりの運転席に座るティオを見た。強化プラスチック製の白い顔には光で表される微笑みが浮かんでいて、角度に因っては表情を形作る光が頼り無く揺れる。 ずっと傍らに居てくれた存在(データ)。 紫苑はホログラフィックの少女が、命の躍動を見せていた様に彼にも命があると感じる。 同じ型式のロボットを見た事もあるが、ティオとは違う性格を持っていたから個があるのだと。 物心ついた時には側にいて、データを乗せる体の方は幾度か変わったが父母よりも、人の友人達よりも遥かに長い時間を共に歩んで来たティオ。 「寒いね」
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