カストルとポルックス

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紫苑達は、車外に出た途端同じ言葉を言い合った。 どちらからともなく微笑みを作り合い。 「もうすぐ、なんだよね」 「冬は空気が澄んでいて、星を眺めるのに良い条件だって昔は言っていたけどね」 「残念だなあ、今年は流星群が見られた筈なのでしょう」 「うん。新月だし、空も晴れ間が覗いたし。ここは人工の明かりも少ないから」 「絶好の条件も、『雪の花』に邪魔されちゃあね」 共に見上げる夜空には、一等星よりも明るい紛い物の雪の結晶が花開いている。 光に包まれ行く、滅びの世界。 死は、滅びは、暗闇だと思っていただけに皮肉にも感じる荘厳なる美しさ。 仏教寺院の、煌びやかながらも常に人の終わりを意識させる何処かよそよそしい雰囲気を纏うそれ。 真暗闇と呼ぶべきものは人の活動が文化的に成るほどに消え、豊かな自然が残された場所か、それを必要とする場所に追いやられていたのに。 人が暗闇を駆逐する程に生活は豊かになっているのだとも言えたのに、紫苑は今、滅びが光に包まれたものだと感じる事、暗闇を眠りの安息だと感じる事に虚しさを覚える。 宇宙の始まりにはビッグバンが有り、光に包まれた世界が有ったとも知ったけれど。
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