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それは幻想的と呼べもする光景なのだけれど。
全てを覆い隠す、暴力的な光だとも感じ取れる。
ポルックスとカストルさえ霞んで見える程に、全天は巨大な紛い物の雪の結晶に、滅びを象徴する空間に覆われているのだから。
「……最後の時を過ごすの、本当にここで良かったの」
「うん。流星群見てみたかったし、私の周りの人はもう皆先に逝っちゃったから」
だから紫苑は人とは違い、自殺する事のないティオと最も長く共に過ごして来たのだ。
機械であるティオに自殺の概念は有っても実行は不可能だろうと。機械に命は無いとされ、見せ掛け上人らしく振る舞う姿に命が有ると勘違いしてしまうだけで。彼がもし死ぬのだと言うのならば、それは蓄積されたデータが全て消えた時なのだろう。
暫く無言で歩き、ようやく辿り着いた小高い丘の上で寄り添う。
「最後まで、我儘に付き合ってくれてありがとう」
ティオの肌は冷え切っている。
けれど、心は温かいと紫苑は思う。
一度体を新しくする際に、ペンフィールド・システムを変えて最新のものにするかとの話も出たが、人に似せた体温を持たす事は拒否した過去がある。それでは偽りに偽りを重ねる様で、人とは違うのだと返って虚しさや隔たりを余計に強く感じたから。
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