カストルとポルックス

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眠気が強くなって来ている。車内で飲んだ薬の所為だ。紫苑は空気の冷たさも、天から降りて来る雪の冷たさも、ティオの肌の冷たさも徐々に感じ取れなくなっていた。 「薬、もう飲んでしまっているんだよね」 ティオ自身が用意してくれた薬だ。 人の為に作られた、穏やかに苦しみのない眠りに就ける薬。 実際、もう眠りにはあらがい難い。もう独り言と思う台詞を追って更に質問を囁く。 「……僕等はカストルとポルックスの様になれますか」 まさかとの思いに、紫苑は目を見開いた。 同じ事を考えたのかと。 最期を看取ってくれると約束し、ここまで付いて来てくれたティオは。 「ん、……きっとなれるね」 「僕等に命は、魂は有りません。心だって貴女方に寄り添う為に最適な行動を取り続ける選択の果てに、そうあるのだと勘違いさせているのに違いないのに」 「そんなもの、私達にだって本当にあるのかなんて誰も知らない」 硬いプラスチックの柔らかな曲線と光沢。光の点滅で形作られ、無数にある様で決められたパターン以外に変わらない表情。 紫苑は、無機物の上に構築され表される表情に哀しげな心を感じて笑うしかなかった。
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