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「相性ってさ、あるのよね。親子で相性が合わないと最悪よ。どう頑張っても自分の子が異物にしか思えないの」
無心になろうとする頭の中に響く声。体で表す想いとは裏腹の心を翼は胸中に呟く。
(僕も異質だよ。貴女が我が子を愛せなかった様に)
想像するのに嫌悪する事があるのだ。人の持つ三大欲求、その一つを。
睡眠欲、食欲。この二つは生きるのに切っても切り離せないから、必要さは否応なしに分かるもの。理屈でも、理屈じゃなくても肌で分かる自らの命に関わる欲求。
でも最後の一つは分からない。愛すると言う感情に付随する筈の感情。生き物としての本能的な衝動。分かるのは情愛のアガペ、性欲のエロスは想像すると身震いがする。
翼は自分が誰かと睦み合う姿を想像出来ない。そして自分を女の子だとも思えない。男の子でもないと分かっている癖に、心は自分が何者かとらえ切れないでいる。
目の前、プログラムに合わせ無音のままに静かに踊るシンソウ・カノジョ。煌めくエフェクトは映像だからこその幻影。今は空より舞い落ちる粉雪に輝きが反射して、より一層の幻視の如き目眩と静けさを深めている。
喉元のカメオと左右の腕のブレスレットに似せた小さな機械の中に収められながら、この世界の中に3Dとして存在できる虚構の命は儚くも朗らかで。4Kや8Kの素晴らしい色彩を映し出す映像技術が先に有ったからこそ、彼女は今ここにリアルさを持って存在している。
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