カストルとポルックス

19/22
前へ
/164ページ
次へ
彼女は寂しかったから、寂しがり屋だったから優しい音色で。 幾度か取り替えて来た入れ物。耐用年数が近付く度に新しくした身体は、紫苑の願いを受け入れて外観も性能も大きく変えなかった。 「ティオの側にいる」 「ティオと一緒にいたい」 「ティオが居てくれるから良いの」 物心付いた頃から、約束として数限りなく繰り返された言葉。 紫苑はティオのデータを失う事を恐れ、常にそのデータを保険の様にウラヌス衛星を介したサーバの一つに保管していた。そしてティオのデータの保存は、同時に彼の中にある紫苑のデータの保存でもあった。細かな周期で、何度も丁寧に慎重に。 だからティオは彼女に関しては、常に自立性を持つどの機械よりも正しく判断を下し望みのままに振る舞えていた筈だった。 過去のデータを繰り返し取り出し、その生きて来た軌跡を幾つものルートで反芻するティオ。 空から舞い落ちる雪は、動かないティオと紫苑の上に際限もなく降り積もり、一つの解が出る。 彼女の生きて来た証しであるデータは自分と共に有るのだから。 そう、だから、彼女はまだ僕の中に生きている。 「……紫苑、僕は貴女を甦らしたい」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加