カストルとポルックス

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不意にティオは舞い落ちる雪の中に立ち上がった。 「データは本物です。僕は、貴女に新しい身体を与えます」 それが自立性の高さを得ていた機械に生じた異常なのか、切なる願いなのかは誰にも分からない。 感情を排除し論理的に告げるならば、確かにそれは故障と呼ぶべきもので、紫苑が記録データの要となるハード面を取り替えるのを頑なに拒んだが故の皮肉な事故。 人は一度死ねば二度と甦らせは出来ない。写し取ったデータを新たな入れ物にすげ替えた所で、本物の彼女は既に死に、新たに生じるのは代価品なのだと誰もが判断出来ただろうに。 機械の記憶の心臓と言うべき中央処理装置(CPU)の交換に、心理的な拒否を感じてしまうのは仕方がないのかも知れないけれど。 彼女はそこにティオが存在するのだと感じていたから。取り替えてしまえばティオは新しくなるけれど、それは以前のティオを殺して瓜二つの物を作り出しているに過ぎないと感じていたから。 それ、なのに。 取り替えられなかったハード面に生じた些細な不具合が、ティオに判断を正しく取らせなかった。彼に取っては正しくとも。 ティオは同じだと処理した。
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