カストルとポルックス

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「ティオ、ずっと側に居て。独りにしないで」 親しい人が、知り合った人が逝く度に。常に見続けねばならなかった『真空崩壊』した夜空の様相に、底知れぬ恐怖や不安を持って生きる望みを断つ度に繰り返された約束。 訳の分からぬ事象に命を奪われるなら、いっそ幸せな内に死をと望んでひっそりと旅立つ度に口にして来た言葉。 それを守ると。 「紫苑、約束です。最後まで一緒にいましょう。貴女が眠りに就く最期まで僕は傍らに居たのだから、今度は貴女が僕の傍らに居て下さい」 無機質な腕の中に抱く紫苑の身体を真っ白な雪の上に横たえ、ティオは登って来た丘を降り始めた。 紫苑のもう使えない肉体は、やがて降り積もる雪の中に封印されて、束の間、琥珀の中に閉じ込められた昆虫の様にその姿を保存されるだろう。 止めるものは存在しない。 彼女の想い出を反芻し出した時から、彼は外部との接続を断ち計算への干渉を拒んでいたから。それは自立性ある機械の、個を大切にする優位性が記した判断。 記録の心臓たるCPUに生じた小さな不具合を排除しなかった為の。人のシナプスの信号が導き出す誤った答えの如く。
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