ミダス王

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横行した暴力と犯罪。 妖しげな終末思想を謳う宗教と、神は存在しないと叫ぶ人達。 科学すら、人が道筋を整え、誰にでも使える様にとして来た学問さえ無意味だと。 (自分も酷い事をした) 立ち上がりながら一瞬目を向けた窓にはブラインドが下ろされ、外の景色を眺める事は叶わない。 人が、忘れようとも忘れられない空間。 天空に広がる相転移した空間は、それが死の先触れだと知る者には恐怖と共に記憶に刻み込まれて行くもの。泥濘(でいねい)の如く心に溜まり、やがて人の心を狂わす。 人類に……否、この宇宙そのものに滅びをもたらし、終わりのその時まで恐怖を刻み付けて行くのだろう。刻々と増え行く、あの偽りの雪の結晶はけして融けはしないのだから。 (あの子、帰って来てくれたのねえ) 終わりまでの残り少ない日を、気紛れにここに残っているのであろう少女。『僕』と自分を呼称して、幻の如きホログラフィックの連れ合いを大切に扱って。 年端は未だ十代半ば。子供から大人への成長の過渡期にあり、どっちつかずの心を持て余している様にも見える人。時折、恐ろしく大人びた表情や考えも見せるのは、この終わりの時代に取り残されている若者特有の表情なのか。
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