ミダス王

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視界三六〇度をぐるりと撮影した映像は、南米チリのアカタマ砂漠の映像だと聞いている。星を観測するには高度が高く、障害物も少なく、人工の明かりも無ければ湿気も少ないその砂漠は空気が澄み渡り、日本では最難関とされる東京大学の天文台もある場所。 人どころか、生命が生きるに適さない環境でありながら、星の観測には適しているとされ。 知らない事を知ろうとする好奇心の為だけに、世界最高峰の技術を持ち込む人の労力の果てしなさを思い知らされる場所でもある。最も、今の人にその労力の果てに築かれた物を引き継いだ者が居るかは知らないが。 「星座って、ギリシャ神話が元になっているのですよね」 尋ねながら思い出すのは目の前で破壊された機械の姿。彼女は、翼の事を神話の登場人物になぞらえて呼んだ。『ピュグマリオン』と。 神話に於いて、人の女に愛想を尽かして理想の女性を彫り上げた人物。 人を愛せない自分には相応しいと思う。 「北半球のものね。トレミーの四十八星座とも言うわねえ。起源二世紀、クラウディオス・プトレマイオスが決定したとされるわね」 どこか、のんびりとした緑の言葉。 彼女の瞳は英雄オリオンから、余り見慣れない星座へと移る。直ぐ隣に配置されたシリウス輝くおおいぬ座の反対、エリダヌス座に。
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