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「お嬢さん。こちらは暗くするから、食べ難い様だったら隣の部屋へ移動して貰えないかな」
丸い小さなテーブルを出して来た赤燈に声を掛けられ、なにかその星座に思い入れがあるのだろうかとの疑問は立ち消えた。
頷き、手にトレイを持って立ち上がった翼は、促す素振りを特に見せるでも無く流れる様にキッチン・スペースへ向かった緑の後を追う。
一度だけ振り返ると、赤燈はティナが置いたプラネタリウムの位置を微調整していた。
程なく歓声を上げ始める子供達の元へ、ティキがココアとミルクを入れたカップを持って行く。何時の間にか、そうした用意が出来る辺りは流石、ホテルの従業員である。
キッチン・スペースでは、焼け始めたリンゴの甘い匂いが立ち込め始めていた。
「あ、焼きリンゴ」
「はい、今夜のデザートですよ」
既に椅子を引いて待っている緑に軽く会釈して、翼が食事を再び取り出すと、程なくトレイ横へ焼き上がったリンゴを半分に切り分けバニラアイスを添えて提供して来る。
光源を落とされ、天体ショーも佳境の隣からは子供達の感嘆の溜息が漏れ聞こえ、二つの部屋は心地好い静けさに包まれていた。
半分とろけたアイスをソース代わりにリンゴに絡ませ口に運び終えてから、翼は向かいに座って終始柔和な表情を見せていた緑に向け、深呼吸を一つし、しっかり目を合わせ口を開く。
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