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問い掛けの虚しさを知りながら、残された時間の中でなおも考える。
声を失くしたシンソウ・カノジョは答えてくれないから。
ティアのプログラムに自立性は少ないから。
「子供って愛情が無いと、体の発達も未熟なんだってね。娘はそうだった。見た目だけきちんとしていても、心は伝わっちゃうんだよね。ずーと演じていたの」
音を消し去り踊る。思い出すのは、伏せられもせず真っ直ぐに前を見据える眼差し。
「十四……五年かな。自分の子なのに正しい歳を忘れちゃった」
シンソウ・カノジョと踊る、今の翼と同じ歳。静かに聞いた、心に痛みを伴う物語。
その歳でその子が居なくなってしまったと。
繰り返された家出の果ての失踪と、探し当てた時にはもう新しい家族を作っていた事も、母である事実を拒否された事も。
瞳には揺らめく感情は無く、その人は何時しか翼に渡した小さな機械を眺めていた。
「良いお母さんをね、演じてた。でもあの子の深層意識は、心は、嘘を見破っていた」
小さな庭の片隅、銀杏の木陰。
僅かな風に、例年より早く色付いた黄金の葉が舞い落ちて行く中で、同じベンチに座る人の狭い範囲にしか届かない声が響く。
誰に言うともない様に呟かれる内容と、その重さに反して井戸端会議並みに軽やかな口調。
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