ミダス王

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人類最後の大失態だとさえ称される,人手不足の中で性急に投入された初期のAI。 「青野翼、せめて私を連れて行って。過去の私を、貴女を守る為に」 静かに繰り返される懇願の言葉。つまり暴動の抑制に作られ、人を殺戮した機械がここにはあるのか。 息を飲む中で、初老の女性の目が優しく細められる。隣の部屋からは楽しそうに子供等のはしゃぐ声。我先にと見知った星の名を叫び、星座の名を呼んで、プラネタリウムと化した部屋の天井や壁を眺めて『綺麗』だと『凄い』と歓声を上げている。 遥かな時を経ても変わる事のなかった、今は欠けて行くばかりの星空の美しさにさざめき笑い。語られる英雄の、神々の奔放さに憧れ。 「私は……そうね、エリダヌスね。アポロン神に逆らい姿を変えられ、そして許しを乞うかの様に彼の子であるパエトーンを炎の中で受け止めた」 脈絡もなく不意に始まる神話の話。語られた中、翼が知っているのは後半部分。父親がアポロン神であるのだと証明しようとして、本来神が御するべき太陽の御車を引き、結局は制御できなくなり天も地も、海や川さえも燃やし尽くし掛けた中で最高神ゼウスの雷に打たれ落下し絶命した幼稚なパエトーン。 彼を唯一、煉獄と化した天地の中で逃げる事なく冷たい水の中に受け止めたエリダヌス。 その功績で天に飾られた筈の川の名。
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