ミダス王

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川底には弟の死を嘆き、遺体を探して見つけられなかった姉妹が白鳥となって流した涙が琥珀と化して沈んでいるとも神話には謳われる。 穏やかな笑みが廣瀬緑を名乗る機械の顔に浮かぶ。エリダヌスの様に、人の子を救う事で許しを得ようとした機械、それが彼女なのか。今の状況を思えば、翼はそう判断せざるを得ない。 親の居ない子供達を引き受け養う彼女は。 「赤燈は『リペア』を時期尚早に導入したと非難され警察を辞めたのよ。『真空崩壊』後、深刻な人手不足の解消を性急に推し進めて、思考のバイアスを危険な方向に捻じ曲げたAIを事件解決に投入してしまったとね」 「赤燈さんって」 「元は警察のお偉いさんよ。そして赤燈の父親はAIを本当の人工知能たらしめた人の一人」 硬い言葉を使わず赤燈を評し、続ける。 「彼は人工知能と人の対立を避ける為に罪を被ったのだとも言えるし、エリダヌスの友人であるミダス王の如く、直感のままに動いてしまったとも言えるわ」 ミダス王。ここでまた同じギリシャ神話の登場人物の名が出て来るのに首を傾げる。 「彼は、触れるもの全てを黄金に変える力を神に乞い、それを一度得て失くした人」 その話も翼は知っている。頷いて、彼がその力を(そそ)ぎ落とした川では砂金が採れる様になった後日譚も思い起こす。悲しみも、愚かさの結果も美しく伝える人の心の優しさを感じつつ。
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