ミダス王

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ミダス王は愚直な王だ。再び自分の感情に素直に従い、またも災難を受けるのだから。 音楽を聴く才能が無いと、アポロン神に耳をロバのものへと変えられて。 神話は知らずとも、『王様の耳はロバの耳』の童話を知るなら聞いた事があるだろう物語。 「エリダヌスは神と音楽の腕を競ったのよ」 「それは牧神パーンでは」 尋ねた声には微笑みが返される。否定の言葉はなく、肯定の言葉もなく。 「物語は一つではないわ。エリダヌスは牧神パーンに使えるサテュロスの一人。拾ったフルートを気に入り奏でる間に音色の美しさが評判となって、何時しか音楽の神と呼ばれるアポロン神と腕を比べる事となった。ええ、そうよ。最初から勝ち目はない。神様との腕比べだし、フルートには別の神様の呪いが掛かっていたから」 始めて聞く神話。そして物語は一つではないとの意見に翼は頷く。赤燈もまた彼の信念から見た物語と、ただ結果のみを見た人との意見では、まるで違う物語を紡いでいたのだろう。 立ち位置を知っても、両者の齟齬は埋められないかも知れないが。 「フルートを作ったのは智慧の神と呼ばれるアテナ神。最初は縦向きで吹く形に作られたフルートは音色こそ綺麗だったけれど、演奏する姿が頬を膨らませて滑稽だと他の女神に笑われたの。だからアテナ神は、美しい自分を嘲りの対象にさせた笛を拾う者に災いあれと呪いを掛けて捨てた。八つ当たりよね」
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