ミダス王

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ならば負けはフルートを拾った地点で確定していた。そして災いは、周りの者の過剰な評判を聞き付けた神の手に因ってもたらされる。 形こそ腕比べだが、端から神罰は下されると決まっていたのだ。 「負けて当然の勝負。そしてその判定をする者に選ばれたのがミダス王。純朴な音色を好む彼は、技巧に富んだ神の竪琴の音色よりもフルートの方が良いと判断した。もう一人の判定者は、アポロンの神の演奏が秀でていたと判断し二度目の勝負が行われたの。楽器を逆さまにして演奏すると条件を付けてね。 当然、フルートは音など出なくてアポロン神の勝ちとなり、間違った判定をしたと、耳をロバのものに変えられたのよ。ミダス王は」 そしてエリダヌスは川へと姿を変えられ、素朴な音を奏でるだけの身となったのだろう。 初めて知る、形の違う神話の内容。 変身は、殺戮機械と呼ばれた『リペア』から『廣瀬緑』への比喩だろうか。 特別な能力を行使するかに見えて、結局は己を作り出した人と言う神に全てを奪われた憐れなエリダヌスが彼女なのか。 彼女(リペア)は命令に逆らう術は持たなかった筈だ。初期の人工知能には、人の力が大いに介入できる余地があったと聞くから。いわば半分だけしか自立していなかったと。 お偉いさんの単語から推測するに、赤燈は権力を振るえる側に居たのだろう。回避不可能な破滅を知った人が引き起こした争乱期は『リペア』投入で沈静化した側面が確かにある。
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