ミダス王

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ただし、それ以上に暴動者を有無を言わさず殺戮した面が有名なのだ。 宇宙そのものが死滅するのだと宣言されてから、いたずらに恐怖心を、絶望を増幅されて狂った行為に走った人々を短絡的に殺したと。 『セイレーン』ほど優しく人を死に導かなかった『リペア』は、多くの市民に過剰な武装をしていると判断され僅か七ヶ月の運用期間で全てが廃棄された。最初期のAIを登載した機体は失敗品だとされ、自立機械のノウハウは一度更地にされたのだとも。 それが残され、このホテルに在る事実が翼にはまだ飲み込められない。 「ねえ、青野翼さん。貴女が追おうと考えている男は機械からも危険とされているのよ」 不意に戻った会話の内容に、男の出自を思うよりも、ネットワークで繋がる機械には自分の名など分かっていたんだと思う。 「あの男は機械と人のハイブリッドなのだから」 穏やかな口調も物腰もそのままに、緑はゆっくりと立ち上がる。機敏さを見せない仕草は歳月を経た人そのもので、『セイレーン』の人を超越した動きを目の当たりにして来た分、彼女がカミングアウトした事実を悪い冗談だと一笑に伏したかった。 けれど、促され立ち上がった翼は確かな事実が語られたのだとも理解していた。対面に腰掛けてから、殊更真っ直ぐに見詰めて来る表情に人とは違うものを感じ取れたから。 化粧の施された顔色は窺い難くとも、その化粧崩れの無さに異質さは読み取れたから。
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