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「あなた、ちょっと地下へ行って来ますね」
甲高い歓声を上げて、掴める筈のない光子が映し出す星々に手を伸ばし、室内を走り回る子等の中に居ても赤燈には耳慣れた妻の声は伝わったらしい。
言葉に含まれた意味も。
ほんの僅か、彼は険しい表情を見せた。
今まで無口で、表情は乏しく険しい顔をしていたけれど、それでも見せた事のなかった程の表情を。
かつての負の遺産があるのだと、翼にも直ぐ分かってしまう程、露骨に。
「ティナ、ティム、ティキ、ティカ。ちょっと皆を頼む」
藤蔓で編まれた椅子から身を離しつつ、赤燈は従業員に声を掛けて子供達を託す。
無邪気に『一緒に行く』だの、『だめぇ』だのと不満を漏らす声には直ぐに対応して機械達が注意を赤燈から逸らしていて、人以上に機微を読む優秀さを発揮して。
「あら、一人でも大丈夫ですよ」
「いや、わしも行った方が良いだろう」
荒げられる事のない会話の声は優しく互いを気遣う音色を奏で、一方が無機質からなる機微なのだとは信じられないものがある。
少ない言葉の中に、長い季、共に育んで来た信頼を見せるから。
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