ミダス王

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人型へと変われば、正に動く楯となり、鉾となり、超越的な力で暴徒化した人々を制圧した機体。かつての動画では、その可変ぶりがリアル・アニメーションだとも一部で騒がれもした、武器を登載し数多の命を刈り取った無慈悲な人工知能。 「お嬢さん、これは以前の『リペア』とは違う。お嬢さんの身を守る為にのみ生きるだろう」 幽かなモーター音の響く中で厳かに赤燈は告げた。 生きる。翼はその言葉に赤燈が機械を本当に人と同等の存在だとしているのだと気付く。 寄り添う緑の微笑み。 『廣瀬緑』と、目の前の『リペア』の根幹は同じ。罪なき人を守る目的で運用された点はどちらにとっても確かな事実。 秘匿されて来た鮮烈な色彩一つを纏う機体もまた学習し続け、耐用年数を越える前に全ての部品を新しくしたのだろう。外観こそ廃棄処分された機体と寸分違わないが、内容はバージョンアップしている筈。危険な力を持たせたのは信頼だったのか、残された時間宣言された世界で予測不能な暴力に晒される弱者を守りたかったからなのか。 問わないまま、翼はゆっくりと丁寧に頭を垂れた。 「ありがとうございます。僕は、あの男が機械の破壊を繰り返すのを止めたい。機械にも心はあると僕も信じますから」 欠けた心でも、それは確かなのだと信じて。
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